monbus

アラン諸島紀行

2018.09.28

世界一有名なニット、「アランセーター」
1000年以上歴史があると言われていますが、ヨーロッパに存在が知られたのは1956年だそうです。

7,8年前から毎年アイルランド、スコットランドに行き、ニットを仕入れてきていますが、
アイルランドの西の果てに伝説のセーターの島があるということで、これは行くしかない!と今年1月に行ってきました。

 

大西洋から吹きつける強風、土壌は岩盤なので木も生えない過酷な土地。
木枠に布を貼って、表面をコールタールで固めた「カラハ」と呼ばれる小さい小舟で大西洋の荒波に乗り出す漁は
常に死と隣り合わせでした。

漁師たちは、女性たちが家族のために編んだ網目模様のセーターを着用していました。
ウールの持つ油脂分が防水機能の役割を果たし、
太い毛糸で編み込まれた分厚いセーターは保温機能も兼ね備えているので、漁師たちの必需品でした。
ハニカム(蜂の巣)、ジグザグ、、ダイヤ、トレリス(石垣)、ブラックベリーなど、島の自然がモチーフとして編み込まれた図柄には、家族の安全を祈る気持ちが込められていました。そして海で遭難して顔が判別できなくても、セーターの模様で誰の家族か判別できるようになっており、家紋のような役割もあったようです。

 

私たちもアイルランド本島の西、ゴールウェイからフェリーで渡りましたが、
強風の中、まさに波の壁を乗り越えながら進みます。小さいボートではあっという間に沈むレベルだと思います。
ミキさんは20分ほどで完全にダウンしてしまいました。。。

ミキさんはフェリー乗り場のカフェに置いて、
自転車を借り、ニッターさんを探しにいざ出発!
が、強風すぎて向かい風だと全然進まないーーーー

 


公用語がゲール語。学校でもゲール語の勉強をするみたいです。

 

さぁ、ニッターさんをどう探そうか??
人に聞こうにも歩いている人は皆無。。。
家もまばらで、ドアをノックしても人の気配をまるで感じない。。。

事前に調べていたお店は、ニッターさんは亡くなられていましたが、旦那さんがやっているという事で行ってみましたが、すでに空き家に。。。

 

とりあえず、ケルト人の古代遺跡、ドン・エンガスに向かうかー
強風に必死で逆らいながら、10分おきに晴れ、雨、あられ、虹の繰り返し。う〜〜んすごい環境。。。

何故ここに住もうと思ったのか全く理解できない状況です。

 

あっ!!家のドアに鍵を閉めてる全身ニットのおばあさんを発見!!
声をかけたら、なんとニッターさんではないですかーー
昔からついてる自分に感謝!笑
でもよくよく考えると、島にいるおばあさんは多分全員ニッターさんですね。

ニットをたくさん見せてもらいました。
手編みなので生地がポコポコと凹凸がはっきりしており、肉厚で人の暖かみを感じます。
事前にダブリンで見ていた機械編みのものとは明らかに違います。

ひとまず一安心。。。

 

少し島の写真をご覧ください。


紀元前からあるドン・エンガス。かつて祭られていたケルトの神々が宿っているようで引き寄せられます。

 


ドン・エンガスの敷地に入ったら雪が!何かありそうな。。。

 


恐ろしすぎて近づけない。。。毎年何人か観光客が落ちてしまうみたいです。汗


岩盤を砕き、海藻を混ぜて作った土でわずかな畑を耕作します。そしてトレリス(石垣)で貴重な土が飛ばないようにしていました。トレリスの隙間を抜ける風がたまに口笛のように聞こえます。

 


廃墟となっているセブンチャーチ。旦那さんの無事を祈りに来ていたのでしょうか。。。

 


キリスト教のシンボルであるラテン十字と太陽のシンボルである円を組み合わせたとされているケルト十字。祈らずにはいられない重厚な空気が流れています。

 

普段、仕事着として白いアランセーターは汚れやすいので着ることはなく、グレーやネイビー、グリーンを着ていたようです。白は教会での儀式の時に使われていました。
アラン諸島では、昔から男児は妖精にさらわれるという伝説があったようです。過酷な生活環境で男児の死亡率が高かったんでしょうね。
母親は無事に成長した事への感謝を込めて、正装用の真っ白なアランセーターを編んでいました。

 

実際に自転車で島中を走り回り、出会った方々とお話して、
一枚のアランセーターには、島の歴史と、厳しい自然と向き合いながら生きる編み手の
家族への思いや人生が編み込まれているものだからこそ、世界中の人を引きつけるんだなぁと感じます。

こういうものを見つけてご紹介していけるように、まだまだ旅を続けて、皆様と共に楽しんでいきたいと思います。

 

「この島の日用品は、どれをとってみても、ほとんど個性的という趣を持っており、それが芸術とは全く無縁のこの島の単純な生活に、中世の生活に見られたような芸術的な美しさを添えていた」。(ジョン・M・シング)

「ハリスツイードとアランセーター」(著 長谷川善美)一部引用

 

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